実子誘拐(連れ去り)を許さない
PREVENTING PARENTAL CHILD ABDUCTION~

日本国内において、親権争いを優位に進めるため、実子誘拐による一方的な親子断絶行為が頻発し、実子誘拐を起因として、児童虐待による子どもの死や被害者親の自殺など、おぞましい事態が数多く発生している。

*令和3年の「子の引き渡し」申し立ての新規件数を1日平均で換算すると、1日に6~7件の申立てが行われていることになる。

これらを踏まえて国会や報道等では、実子誘拐は既に家庭の問題ではなく、社会問題としての認識が社会通念上一般的になってきている。

この実子誘拐において、もっとも重要で無条件で捉えなければならないことは、被害を受ける子ども達のことである。子どもにとって実子誘拐による親子断絶は、子どもの成長に長期間にわたり悪影響を及ぼす非人道的行為であり、欧米の先進国では拉致誘拐や児童虐待として一般的に認知されている。

日本における実子誘拐被害者のコミュニティーとして本会を立ち上げると共に、その実情を世界に発信することを目的とする。



2025年6月9日 追記

「子どもの関係性を奪うという暴力:離婚係争中の連れ去りと日本における人権意識の課題」

はじめに
日本では、離婚の係争に伴う「子の連れ去り」や「実子誘拐」と呼ばれる現象が、長年にわたり放置されてきました。親権争いの一環として、片親が子を連れ去ることで、もう一方の親との関係を一方的に断絶する行為は、子が親に会えない、親が子に会えないと言った現象面だけがクローズアップされることが多いように思います。しかし、問題の本質は現象面にはありません。連れ去りが子どもに与える根源的な被害について、関係性の視点から考えてみたいと思います。



1. 「関係性の破壊」という本質的問題
人は誰しも、他者との関係性の中で自己を確立し、成長していきます。子どもにとってその関係性は、とりわけ親や兄弟など近しい存在とのつながりに依拠しており、それを自ら選ぶことはできません。ところが、離婚係争中の子の連れ去りにおいては、片方の親の極めて独善的な主観によって子どもの関係性が一方的に破壊されるという深刻な暴力が生じるケースもあります。
これはたとえば、第三者がある成人の大切な人間関係を、何の同意もなく破壊・断絶させたとしたらどうか、という想像に置き換えると分かりやすいでしょう。それは明らかに「人権の侵害」「暴力」とみなされます。ところが、子どもがその被害者になると、多くの人がその重大性に気づかない。連れ去られた方に原因があるのだろう、というある意味問題の本質を見ないで、この重大な問題を片付けてしまいがちです。ここに、日本における「子どもの人権意識の低さ」が如実に表れています。



2. 「命を懸けて産んだから、育てから」という論拠の危うさ
「母親は命を懸けて出産したのだから、子を連れて行ったことを許容しなさい」という人も中には居ます。たしかに出産は命がけの行為です。しかし、その尊い経験が、その後の子育てにおいて子を「所有物」とみなし、主観的な「保護」の名のもとに子の関係性を独善的に破壊していい理由にはなりません。
こうした傾向の最たる例が、母親による「親子心中」にも見られます。「命を懸けて産んだのだから、この子を置いていけない。」という悲劇的誤認は、極限的ではあるものの、連れ去りによる関係性の破壊とも本質的には共通しています。いずれも「子の人生を大人が決定する」構図であり、子の主体性を奪う点で同質的です。
なお、最近は、同様の傾向は母親に限られたものではなく、男性であっても「自分は命を懸けて育ててきた」という強い思いから、断絶や連れ去りに走る事例が存在します。いずれの場合も、「自分が守る」という強い思いが、結果的に子どもの関係性を奪う「暴力」に転化している点が共通しています。



3. 子どもの心理発達に与える影響
3.1 アタッチメント理論と関係性の重要性
心理学者ジョン・ボウルビィによる「アタッチメント理論」では、子どもは安定した愛着対象(主に養育者)との継続的関係によって、安全感と信頼感を獲得し、社会的・感情的に健全な発達を遂げるとされます¹。連れ去りによってこれが突然断絶された場合、子どもは情緒の不安定化、分離不安、自尊心の低下、対人関係の困難といった長期的問題に直面します²。
3.2 忠誠葛藤(Loyalty Conflict)
連れ去りや離婚争いにおいては、子どもが「どちらか一方の親を選ばなければならない」という圧力を感じる「忠誠葛藤」も深刻です。これにより、自己否定感、抑うつ、学業不振、行動問題が生じる可能性が高まります³。



4. 国際比較と人権意識の差
国連「子どもの権利条約」(日本は1994年批准)の第9条は、「子どもは父母のいずれとも定期的な接触を保つ権利を有する」ことを明記しています。EU諸国やアメリカ、オーストラリアなどでは、連れ去り行為があった場合、裁判所が早期に子どもとの接触を回復させる仕組みが整っており、「Parental Alienation(片親疎外)」は精神的虐待と見なされることすらあります⁴。
一方日本では、離婚後に単独親権が原則とされており、親権の獲得が「子どもとの唯一の関係維持手段」となってしまっている現実があります。そのため、離婚前から熾烈な親権争いが生じやすく、連れ去りが既成事実化され、事実上「親権獲得の手段」として容認されてしまっているのです⁵。



5. 共同親権への移行と、それでも残る課題
2026年施行予定の法改正により、日本も離婚後の共同親権制度へと移行することが決まりました。この変化は確かに一歩前進したと捉えることができますが、「法的な体裁」だけが整ったとしても、連れ去りにおける問題において関係性の断絶という本質的な問題に向き合わないままでは、形骸化する危険性があります。
子どもは、自分の意志で断絶された関係を回復することができません。ゆえに、その関係性を尊重し、守る責任は、大人と社会にあります。



子どもを「関係性の主体」として捉える視点へ
私たちは、子どもを保護の対象と同時に、関係性を築く主体として捉える視点を持たなければなりません。大人の主観や感情が、子どもが構築したかけがえのない関係性を一方的に破壊することは、「見えない暴力」であり、子どもにとって深刻なトラウマとなり得る行為です。
子どもは、自らの言葉で抗議することも、断絶された関係性を再構築することも多くの場合できません。だからこそ、私たちは、連れ去りを、子供への暴力と捉え活動しなければならないのです。
特にこの子の連れ去りの事案において、子を関係性を築く主体として捉えた場合、子の連れ去りをした親でさえ、子にとっては大切な関係性の一つであることに変わりはなく、連れ去られた側は、連れ去られた側だからこそ、そのことを忘れてはならないという難しい立場に立たされます。



参考文献・脚注
Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss: Vol. 1. Attachment. Basic Books.


Mikulincer, M., & Shaver, P. R. (2007). Attachment in adulthood: Structure, dynamics, and change. Guilford Press.


Johnston, J. R., Roseby, V., & Kuehnle, K. (2009). In the Name of the Child: A Developmental Approach to Understanding and Helping Children of Conflicted and Violent Divorce. Springer.


Warshak, R. A. (2015). Ten Parental Alienation Fallacies That Compromise Decisions in Court and in Therapy. Professional Psychology: Research and Practice, 46(4), 235–249.


山下泰子 (2020).「日本における単独親権制度の課題と国際的動向」『子ども家庭福祉研究』第12号、pp.17–26.


国連子どもの権利委員会(CRC). Convention on the Rights of the Child, Article 9.


LINK
UNITED NATIONS HUMAN RIGHTS OFFICE OF THE HIGH COMMISSIONER